ガラスの歪と歪の測定方法(9-2)
千葉工業大学 付属研究所 教授 岸井 貫
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B 「バイアスコープ法」
「バイアスコープ」はフランスのサン・ゴバン社が発明した表面応力測定器であり、その名前の由来は、ガラス表面に光を斜めに入射させることにあったと推測される。
その当時は、光が表面や表面層内に屈折率極大を伝わって進むという現象が一般に知らされていなくて、測定原理の説明に曖昧なところがあり、また密度の高い光束が得られなかったことで、実用的でなく、一般化しなかった。
現在ではこれらの欠点はすべて解消している。また屈折率計法では測れないような小さい表面応力値の測定に適しており、屈折計法と相補うような関係にある。
ガラスの表面を伝わる光が発生するように、高屈折率プリズムを経て光を入れる。光は直線偏光であり、その振動方向が表面と45度の角度をなしている必要がある。このような光束はガスレーザーや半導体レーザーによって容易に得られる。
ガラス表面に応力があると、入射した時に直線偏光であった光は、表面を伝わる時に進行に伴って光路差が発生する。光がガラス表面上の微少距離dLを通過すると、光路差は、《その位置にある表面応力F×ガラス光弾性常数×dL》だけ変化する。ここで「表面応力」には、光の経路に直角に働いている成分の値を採る。
Fが一定であるならば、偏光が距離Lを通過したときの光路差変化は、《F×L×ガラスの光弾性常数》である。
表面を伝わる光は、経路上の各点でその一部をプリズムの方へ屈折させて送り出すが、送り出された光は表面を伝わる光の送り出し点での偏光特性と同じ特性を持っている。各点からの送り出された光の偏光特性を知ると、送り出された点での表面伝播光の光路差が知られる。
表面応力は、《光の経路上の2点の間での光路差/(2点間の距離×ガラスの光弾性常数)》で計算できる。この式を微分形で書けば《表面応力=光路差上での光路差の増分/(光路差の長さの増分×ガラスの光弾性常数)》である。
高屈折率プリズム側へ取り出された光の光路差を測るには、セナルモン法とバビネ補正器法とがある。
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a. セナルモン法(図57)
取り出された光は顕微鏡と同じ構造の光学系に入り、観察者にはガラス表面を伝わっている光の筋のように見える。接眼部に1/4波長板と偏光板を組込み、セナルモン補正器にして使う。
セナルモン補正器を光路差ゼロ相当に設定すると、光路差ゼロの部分から取り出された光が接眼部で遮断され、観察者にはガラス表面の光の筋のようで光路差ゼロの部分が暗いように見える。補正器の光路差を別の値に設定すれば、光の経路上で光路差が設定された値に等しい部分が暗いように見える(図57)。
従って光の経路上の任意の部分での光路差がそれぞれ決定できる。これから式の光の経路の長さの増分とそれに対応する光路差の増分とが決められ、その光の経路の部分での表面応力が計算できる。
特別な場合として、表面応力が十分強いと、視野の中で表面伝播光の光路差が波長の整数倍変化する。この場合には野中の光條に複数の明暗変化が見える。
明暗変化の一週期が光路差の一波長相当の変化に対応するとして、表面応力を計算できる(図58)。
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【散乱光光弾性法】
今まで述べたように、ガラスの表面の応力はガラス製品の表面を伝わる光を使って各場所ごとの応力を測定することができる。しかしガラス内部の応力を測定することはできなかった。
ガラス内部を通過する光を使っては、経路に沿っての応力の代数的積分値が観察できるだけであった。
しかし、最近のレーザー光源の開発によって、ある条件の下ではガラス製品内部の応力分布を観察することが可能になり、工業的な品質管理に使われ始めた。
この方法はガラス内部で散乱される光を利用するものである。プラスチックでは比較的散乱光が強いので、プラスチック模型を使った光弾性実験ではこの方法が早くから実行されていたが、ガラスでは短波長で強い光束を出すレーザーが作られるまでは、実用的ではなかった。
ガラス中に直線偏光のビームを入れた場合を考える。
光は経路上の各点で散乱されながら進んでゆく。この散乱光は、光の振動方向ゼロの部分が暗い筋として見える(図59a)。応力があると、表面を伝わる距離とともにゼロから増えてゆく。
従って補正器の縞は光が表面に入ったところでは位置を変えず、光の伝播距離が増すとともに位置がずれてゆく(図59b)。
このように、表面応力がなければバビネ補正器の暗い縞は視野の中で垂直ままであるが、表面応力があれば縞が傾き、表面応力が強いほど傾きが大きくなる。
この測定に利用できる表面伝播光は、光学ガラスの研磨面に生ずるものであっても良いし、プレス・吹き工程を経て作られたものでも良い。フロート法板ガラスの錫進入面でも良い。
しかし、化学強化ガラスにはバイアスコープ法を適用できない。化学強化ガラスでは表面の薄い層の中で応力が大きく変化していて、測定器の視野内の光の筋に複雑な明暗模様が生じ、表面応力に対する明暗模様を確認できないからである。
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b. バビネ補正器法
光を幅のある光束の形にして強化ガラスの表面に入れる。観察者にはガラス表面の幅を持つ光の経路が見える。
接眼部にはバビネ補正器が光の実像に重なるように組み込んである。光路差の実像がバビネ補正器と光路差が打ち消し合うような場所が暗く見える。
ガラス表面に応力がなければ、観察者にはバビネ補正器の光路差へは弱く、それと直角方向へは強く放射される。従って視点を決めて散乱光を観察すると、ガラス内に応力があって、光が進行に伴って楕円偏光・円偏光・直線偏光などと特性を変えると、それに応じて散乱光が場所により明るさを変えて見える(図60)。
応力がゼロであれば、偏光は特性を変えずに進行するから、散乱光の強さの変化がないように見える(図60a)。
弱い応力があると、長い周期で明暗の変化を見せる(図60b)。
応力が強い場所では、短い距離を進んでも光路差が1波長になるので、明暗が短い距離ごとに繰り返す(図60c)。このような場合には《
1波長=応力×ガラスの光弾性常数×明暗の1周期 》であり、応力を計算できる。
応力が弱くて1周期を観察できなかったり、光の経路上で場所により圧縮と引っ張りの力がかかっている場合には、入射光に水晶楔で予め光路差を与え、かつこの光路差を増減できるようにしておくと、光路差の増に伴う暗部の移動方向を観て、光の経路に沿う光路差の増または減を次のように判断することができる。
光の経路に沿って光路差が増し次いで減る場合、またはその逆の場合(応力が圧縮力から応力ゼロを経て張力に変わる場合、またその逆の場合)の暗部の移動の様子を図58に概念的に記す。応力ゼロの部分へ暗い部分が両側から集まり、または暗い部分から応力ゼロの部分から両側へ発散するように模様が変化する(図61)。
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【口部を強化したガラスコップの応力測定】
ガラスコップの口部を熱強化することは普通に知られている技術であり、実行している企業の数が多い。
この場合には口部が外面内面とも圧縮応力になっていることが必要である。そうでないと口の部分が自発的にリング状に割れて落ちるという事故が発生しやすい。
口の部分の厚さ方向の応力分布を測る方法は、著者が数年前に発表し、それ以来何社かで実行されている。
しかし広く知られている状況ではないので、前報告を再録する形でここに記す。
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△はしがき
ガラス製コップの破損を防ぐために口の部分を熱強化することは、しばしば行われる技術である。
口付近を重点的に強化するだけで、コップは実用上飛躍的に強くなる。強化処理では、その部分の内外表面ともに圧縮応力が作り込まれていることが大切である。
もしも引張り応力の部分が表面に露出していると、工程─保管─使用のどこかの段階でその部分が破壊の開始点になり、普通はリング形の切片が切り放される形で破損する。
熱強化処理は加熱と冷風吹き付けを含むので、常に一定の結果を得られるとは限らない。
工程管理では口部の応力の分布を見落とすことなく迅速に検査する必要がある。
本稿には筆者が考案した観察・検査の方法を記す。
△「コーニング法」Ritland(当時・米国コーニング・ガラス社)は管形のガラス製品を、屈折率の等しい液を入れたガラス槽に浸して光の屈折と表面反射を防いだ上で、管壁に対しての切線方向に偏光を通して光弾性的観察をし、壁内の応力分布を推測する方法を報告した(図1)。
これは優れた方法であったが、観察結果から応力分布を求める過程が一般に理解され難くて、広く普及はしなかったように思われる。
本稿の方法では、この部分にコンピュータ・シュミレーションを導入して、わかりやすく簡単に結果を得ている。
△応力分布と「光路差曲線」管壁を直線偏光が切線方向に進んで通り抜ける。経路の各点に軸方向・半径方向・切線方向に3つの主応力が存在する。これらの応力は通り抜ける光に対し光弾性効果を及ぼし、「光路差」を発生させる。
管壁を通過し終わった光には、(応力×光弾性常数)を光の経路に沿って積分して得られるだけの光路差が発生している。
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| 以上 |